ST-808『田村 進』氏 チューンナップレポート | TSの秘密

はじめに。GREENとは、 ST-808の基にした「1980年製Maxon OD-808」の個体のこと。この記事では全てGREENと表記いたします。

 icon-check-circle-o 「殆ど変わらない」と言う理由。

EXCEL『ST-808』は、オリジナルMaxon OD-808(以下「GREEN」)と「殆ど変わらない」と、全く同じと言わず、あえて「殆ど変わらない」と言う表現をすることに理由があることをお聞きしました。田村さんから詳しく解説をお願いします。

田村氏最初に、『ST-808』と『GREEN』は同じ音はします。

しかし「殆ど変わらない」の「ほとんど、」と付ける理由については、ツマミ位置、つまり「ポットの公差」のことを含めて表現しているからです。

一般的にポットは許容差が±20%くらいあり、ポットによって公差が出ます。

では、DRIVEのポット500kΩを目の前にして解説してみましょう。

  • このように同じメーカーの同じポットを2つ並べ、
  • 2つを12時に合わせて音を比べても完全には一致しないと言うことです。
  • これが先ほど言った公差の部分。

例え同じ製品であっても、ポットの位置を揃えてもこのようにパーツ個体の公差が出ますから、同じツマミ位置でも音は一致するとは言えません。

もうひとつ重要なのは、これは新品でもVintage品でも同じことが言えるのです。

このようなことから、ST-808についても、 GREENとツマミ位置を揃えても「殆ど変わらない」と言う表現で正しいですよ。互いを12時に揃えても音は完全一致しません。

(「ST-808」と「GREEN」の音を)一致させる方法はあります。AP(Audio Precision オーディオアナライザ、測定器)などの測定器を使えば、明らかになります。現実的に一般ユーザーがAPで測定することはないでしょうが、APでST-808とGREENの比較測定を行うと、特性が一致したポイントを探すことは可能です。

よって、ST-808とGREENについては、同じ音がすると言って間違いはありません。ST-808プロトタイプで何度かのテストを行った段階でも、ギターを弾きながら音でST-808とGREENを一致させることに至っています。

ただ、ここまで説明した通り、その「GREENとST-808の音が一致した時には、ツマミ位置は僅かに異っている」と言う訳です。

これで、分かりましたか?

EXCELはい。お客様に分かりやすくお伝えできたと思います。

ところで、ポットの部品についてですが、1980年当時のポットは特殊な物を使っていたのですか?

これもよく聞かれることですが、ポットの品質については、VintageのOD808のポットは音質にこだわった物を使った訳ではなく、当時の入手のしやすさから使用したものです。当然ながらコストも考慮しますしね。これは今の現行機種つまり新品のMaxon OD-808でも同じ考え方です。

 icon-check-circle-o 真似されることはよいこと。

EXCEL現在も「TS系」「TSクローン」とされるペダルが各社から多数発売されていますが、田村さんはよく私に「真似されることはよいことなんだよ」と仰ることがありますが、
田村氏はい。その通りですね。
コピーされるって事は「それだけ世の中で認められているって事」ですから。

だから真似されると言うことは良い事なんです。

あ、念の為言っておきますが、知的財産権に抵触するのは論外ですよ(笑)

その反対に言えば、売れないものはコピーされないということ。

なので、これだけ「TS系」と色んなメーカーがモチーフにしてくれているのは、いい事ですよ。



icon-check-circle-o 「OD808」「TS808」の違い。

EXCEL続きまして、基本的な話になりますが、『MaxonのOD808と、IbanezのTS808の違い』について解説お願いします。
田村氏VintageのOD808/TS808は、IbanezもMaxonも中身は全く一緒です。「GREEN」も1980年製ですから当てはまりますね。

現行品のMaxon OD-808については、キャラメルスイッチは無いので使ってませんが、1980年のVintageをベースにリイシューしていますので当時と同じ回路です。

でもそれは「GREEN」と比べると音は違いましたね。それでST-808を作る話になりましたよね。

 icon-check-circle-o 「特別なGREEN」理想的TSの音。

EXCEL「GREEN」はVintage品の中でどの様な特徴があるのでしょうか?
田村氏まず、音。「GREEN」は実に理想的なTSの音がしています。

Vintageの中でも「良い物の中で最高に良い物」でしょう。

仮にVintage TSを何百何千と集めてもこの音を目の前にすることはないでしょうね。

「GREEN」は何でも、マニア10数人から「売ってくれ!」と切願されていると聞きましたから..。

そう言われることがよく分かりますね。

  • それだけ特別な個体ですし、
  • TS本来の理想的な音がしますから。
  • それくらい貴重な物でしょう。

今回、そのGREENを基に復刻プロジェクトが進行出来たことはよい巡り会いだったんですよ。

 icon-check-circle-o TS系ペダルの「IC」「マレーシアチップ」への着目。

EXCEL 重要秘密もあると思うので、お話ができる範囲で結構ですが、

TS系ペダルの多くは、製作者はじめマニアの間でもよくチップ、特に「マレーシアチップ」について着目されているようです。

確かにICは最も重要なパーツであることは間違いないですが、何もマレーシアチップに限らず、それに変えれば同じ音になるかと言えば、そうではないのです..。ICに限らず他のパーツとの組み合わせで完成している音ですから..。

この辺くらいまででいいですか(笑)

 icon-check-circle-o 田村氏が語るST-808「Platinum」と「GOLD」。

EXCELはい。ありがとうございます。

最後に、Platinumと、GOLDをエンジニアの田村さんの視点で、それぞれを一言ずつで違いを表すとしたら、どうでしょうか?

田村氏私の視点からそれぞれを解説すると、

  • Platinumは、GREENの特性をできる限り再現しました。
  • GOLDは、これにプラスして弾き手のニュアンスを出しやすくしました。

何より、西村さんが言っているGREENを弾いた「ニュアンス」に関する表現、

  • 「リードで弾くGOLD」
  • 「コードトーンで弾くPlatinum」
    これが最も分かりやすい言い方だと私は思いますよ!実際その通りになりますからね。

2台のST-808、「Platinum」も「GOLD」も、「これぞTSの音がするGREENドンズバ」の音です。

Vintageの愛好家の方も、本来のTSの音を手にしたい方も、たくさんの方に使って欲しいですね!

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SD-9 SUPER「チューンナップレポート」 | S.Tamuraアーカイブス

(黒文字=田村進氏)

EXCEL:チューンナップ素体の「Maxon/SD-9」が誕生した話を教えてください。

(MaxonのSD-9 Sonic Distortionについて、)
「70年代後半から80年代に入る当時は、他のメーカーからもディストーションペダルが発売され始めた時期でした。

(写真:Maxon Sonic Distortion SD-9)

Maxon(株式会社 日伸音波製作所)もその流れに合わせて、SD-9を作り発売しました。ディストーションペダルとしてはMaxonの歴史上では(発売時期)最初の方に位置するモデルです。」

EXCEL:「SD-9 SUPER」の効果的なチューンナップ・ポイントをお聞かせください。

「ポイントは主に「2つ」あります。

・1番はやっぱりTONE(TONE機能)です。
オリジナルのMaxon/SD-9ではその性質上、TONEを7~9時くらいに絞って使うユーザーが多かった様です。

 
「SUPER」では、TONE機能を幅広く、そして、使いやすくするために、TONEポットだけ交換で済ませるのではなく、チューンナップ版としてリリースするためには、私は「TONE回路自体も一緒に変更する必要がある」と考えました。

(写真:チューンナップ版 SD-9 SUPER by EXG)

単にTONEポットを交換して完了ではなくて、TONEをセンター(12時)にして右左どちらに回しても使いやすくするために、

先ほど言った「TONE回路自体の変更を行った」上で、

変更後のTONE回路に合わせて、
「SD-9 SUPER」のために特別に用意したTONEポットへ交換しました。

チューンナップしたことで、TONEツマミはとても使いやすくなりましたね。音をマイルドにするまたはブライトにする、どちらにも使いやすくなりました。



そして、

・2番目のポイントは、EXCELさんからリクエストのあったコンセプトひとつ「ローエンドを重厚に」する点です。
 
チューンナップ作業中は、全て、Audio Precisionで検査(オーディオアナライザ、測定器による検査。以降「AP」「測定器」と省略)しながら、意図する音質がでるように、この辺かな?、この辺かな?と、繰り返しの作業を行いながら、試作機のテストを行いコンセプト通りの低域の厚みが出るようになりました。
 
「SD-9 SUPER」をお買い上げいただいているお客さんの多くが、フュージョンやAORファンであると聞いています。ユーザーさん達の好きなトーンと上手く合ったんでしょうね。よかったと思います。

「SUPER」のポイント、大変だった、苦労した部分を挙げれば以上2点ですね。もちろん、この他にもチューンナップ箇所はありますので、詳しいことは「製品ページを読んで」いただければ、と思います。」

EXCEL:最近の「ブティック系」と呼ばれるペダルエフェクターと、「当製品の作り方の違い」について田村さんのお考えをお聞かせください。


「今回の様なMaxonのチューンナップ版を作る、この様にもう一度見直しながら良い製品を作り出すものと、新しい(ブティック系と呼ばれる様な)エフェクターを作ることは「目指すものが違いますね。」

「作り方の違い」については、
私の場合はまず「製作環境」も違います。どこの、どういったパーツを、どこから用意するか、についても、培ってきた経験や、人と人のネットワークを使って、必要とする部品は手に入れやすいですし、


今回のSD-9 SUPERのTONE機能を例にすれば、
ツマミの動きに合わせて綺麗に変化する様に、ポットの「テーパーや値まで考え」て、「合致する部品を用意」する、時には考えに合った「必要とするパーツを特注できる」環境にあります。

私も長くやってきたんでね(笑)、
今回のチューンナップ版の製品コンセプトの方向性や、目指すゴールを聞いている打ち合わせの段階で、もうある程度どこをどうするかって直ぐ想像で思い描けてしまうんですよね。

AP測定器で1台ずつ測定、検査していることもそうですね。
音はもちろん、「ツマミの動きが正しく変化するかどうか」まで測定器でチェックすることで、アンプで音を出したチェックだけでは分からない、「可聴域(耳で聞こえない音域まで)までの検査」が行えるため、ワイドレンジな検査環境での製品作りを行っています。

なので、「何台中の当たりの1台!」ってことはなくて、お客さんは1台1台が個体差がほとんどない「SD-9 SUPER」をお買い上げいただけますからね。

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